2022-11-11 人にお願いをする時にはお願い事だけを押し付けてはいけない
パリに住んでいるためか、時々自分の暮らしとはまるでかけ離れた生活をしている方に出会う。
一度だけ指圧に伺ったことのある有名キュレーターの方、キュレーター仲間から私の踊りのビデオが回ってきたと見え、日曜日に「11日に私の妹の誕生日があるから10分踊ってほしい」とのメールを送ってきた。私の踊りはあまり心楽しいものではない、つまりパーティ向きではないけれどビデオを見ての依頼ならまあ良いだろう。だけどあまり出張ダンサーみたいなことをするタイプでもないし、殆ど面識のない方のまったく面識のない方に向けての踊りなんてどうしたら良いか。そもそも1回しか会ったことがなく(しかもその時もマッサージが終わったら「お金はお手伝いさんからもらっておいて」とさっさとどこかに消えてしまった)信頼関係もないのに、ギャラの提示もないのはどういうことか。有名人が来るからあなたにとって良い縁になるかもしれない、という上から目線なら全然ノーサンキューなのだが…
とはいえ、声をかけてくれたことは嬉しいので「喜んで。ただ音楽家と一緒に10分というのは世界観が作りづらいので15分くらいいただけたら」とメールをしたらその後当日の今まで一切の連絡がない。念の為昨日の昼にお尋ねのメールもしてみたのだが既読スルー。
5分増やしたことがお気に召さなかったのかもしれないけど、依頼を取りやめるなら取りやめるで連絡をくれるのが筋では?
そもそも、私ならたとえ相手が友人であっても「私の妹の誕生日で10分踊ってよ」なんて気軽には頼めないな。もし頼むとしたら「あなたの踊りが好きだから踊ってほしいけどいつもの活動とは違うしこんなこと頼んでいいか分からないけどお願いできる?もちろんお礼はしたいので音楽家の方と一緒に○○円くらいでどうかな。誕生日会は○時に始まるからもちろんそこにも参加してくれたら嬉しい」というようなことを伝えると思う。信頼関係があってもちゃんとリスペクトは伝えたい。だってその人が一生かけてやっていることだものね。だからこそ頼みたいわけで。
なのに「22時から10分くらい踊ってくれろ」とだけ投げてよこし、詳細を教えてほしいと言ってもスルー。つまりパーティをやっている裏口から入ってショーだけ見せろ、ギャラのことは約束しないということだろうが、たとえお金持ちのみなさんに多くのおひねりをもらったとしても、私はお金よりリスペクトの方を重視したい。
当日朝になった今も連絡がないし、もう締め切り。こちらにも準備や予定というものがある。自分が有名人でお金持ちだからといって何でも動かせると思ったら間違いだし、その人がくれた縁にすがるなどまっぴらである。
たぶん私を(見た目から)貧乏なダンサーを目指してる学生くらいに思ってるのかもしれないけど、どう見えているにせよ、相手のステイタスによってリスペクトを払わなくて良いと判断するなんて間違いだ。
それともリスペクトもできない人の踊りを大事な誕生日で披露するつもりなのか?
そうだとしたらその気持ちもよく分からない。
セレブの前で踊る機会をあげるからタダで踊りなさいなどという勘違いも甚だしい上から目線は今まで嫌というほど味わってきたし、なにより自分のプライドよりは業界を守るために、ダンサーがそんな風に扱われないために、そういう扱いでは人は動かないのだということを示したい。
いやでも、ダンサーって何故こういう扱いをよくされるんだろう。日本だとオペラとかに出演する時なぜかダンサーだけ無給だったりする。歌手やスタッフは有給なのになぜ?お金を払えないような素人を集めてるつもりならそんな素人集団の舞台でいいのか?
芸術を大事にしよう、盛り上げようとするはずのひとが芸術界隈をおとしめるようなことをしてどーする。それともただ自分の名声や生活のために芸術を利用しているんですかね。そういう人に牽引されるとしたら芸術界は不幸だ。
人にものを頼めるのは、自分も何かをその人に渡せる時に限られると思う。
長い信頼関係を築いてきたか、お返しに同じ重みのことができるか、どちらもないならお金を払うこともひとつの選択。
何もなしで何故働かなきゃいけないのかさっぱりわからない。わたしにも予定と生活があるんですけど…。
ということでみなさん。
人にものを頼む時はまず条件を言いましょう。ギャラが出るか、拘束時間はどのくらいか、どのくらい事前準備がいりそうかも分からないのに仕事はできません。
お金が出せないならそのことを言ってほしい。その上でこちらは受けられるか受けられないかを答える。じゃあ代わりに今度奢って。とか代替案も出せるというものです。
後から「ギャラはないんです」って言われて「あっ、お金なし?じゃあ受けられないや」とはやはり人として言いづらいじゃないですか。お願いするだけして言いづらいことはこちらに言わせる、というのはどんな責任逃れなのか。
人はお金だけで動くわけじゃない。だからそのプロジェクトに参加したいと思えば、つまりお金以外の価値があると思えば参加するし、やりたい気持ちはあるけど生活があるからごめん、ということになったりもする。
選択肢は最初に全部提示すべき。
そんなの「写真撮らせて」って言ってOKを取り付けてあとから「ヌードだけどね」って条件を足してくるのと変わらない。
あとになって足された条件を理由に断らなきゃいけない気まずさをこちらの気持ちになって考えてほしい。始めに手の内を明かしてもらえば、嘘でも、「その日空いてないんだ、ごめんね」と本来の理由に触れずに断れたものを。
当たり前のことを書きましたが、8割の人は最初のお願いメールに条件を書いてこない。詳細がかけなくても「お金出ます」「事前準備が必要かも」などこちらのメリット/負担分については初めに触れてほしい。
話が進んでから断ることになるなんてお互い悲しいし時間の無駄だから。